自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その36 同窓会報第91号(2020年1月1日発行)


JMSコホート研究ってまだやってるんですか?」

                         自治医大 医学教育センター 石川鎮清(福岡・12期)
Ishikawa Shi

 JMSコホート研究との関わりは、私が医師4年目で相島という福岡県の小さな近海離島に赴任したのがきっかけでした。ちょうどその年(1992年)に全国7か所でJMSコホート研究がスタートしていました。研究事務局の萱場一則先生(宮城2期)に連絡し、島では島民集会を開いてもらい翌年(1993年)から参加することになりました。そのまま、福岡県で一参加者として関わっていくつもりだったところ、義務年限終了間近に大学の事務局がいなくなるので手伝ってほしいと事務局経験者である名郷直樹先生(愛知9期)と後藤忠雄先生(岐阜12期)に言われて、2年間程度のつもりで大学に戻ることになり、結局、今まで続けることになっています。
 第1コホートでは、1992-1995年に合計で12,490人のベースラインデータを収集し、脳卒中、心筋梗塞の発症および死亡をアウトカムとして2005年末まで追跡調査を行いました。事務局の仕事として、収集したデータのクリーニングと追跡調査に明け暮れながら、各参加地区の方々の協力もあって何とか平均追跡期間が10年を超えたところで追跡終了としました。ベースラインデータおよび追跡データを基に多くの論文が生まれました。本当に感謝しています。
 第2コホートでは、本学の大規模ゲノムバンク事業の一環として始まりました。第1コホートと同様に10,000人を10年間追跡する計画でしたが、最終的には対象者6,436人となり、現在追跡調査を行っているところです。最近になりようやく第2コホートでも論文が出始めてきているところです。
 第1コホート、第2コホートと研究自体は別ですが、事務局は共通のため、近年は年1回11月に東京で合同リサーチミーティングを開催しています。事務局からの報告と5題程度一般演題としてプレゼンをしてもらい、学会さながらに熱い議論をしています。対象地区としての直接の関わりのない先生や対象地区の保健師さんも参加してくれています。今年は11/10(日)に行いましたが、ちょうどその日に「祝賀御列の儀」(即位パレード)と重なってしまい、14:30終了後に参加者の何人かはパレードを見に行ったようですが、人が多すぎて見れなかったとのことでした。普段なかなか会えずにゆるやかにつながっている研究グループの皆さんとお会いできる貴重な機会であり、私としては毎年このリサーチミーティングをとても楽しみにしています。
 JMSコホート研究ってまだやってるんですか?はい、やっています。現在は、第1、第2コホートのデータで、これまでに解析していない内容(リサーチクエスチョン)であれば、自分で解析して学会・論文発表できます。今年も、義務年限中の佐藤史崇先生(和歌山37期)が初めて参加してくれました。現在の社会人大学院生の渡部 純先生(鳥取35期)の紹介でしたが、参加してみて、自分でも解析したり論文を書いたりしてみたいとのことでした。これまでもデータ収集や追跡調査に関わっていない先生もJMSコホート研究のデータを用いて論文を書いています。JMSコホート研究への参加をきっかけに学位取得に至った人はこれまで本学および他大学での合計で10人を超えています。
 コホート研究は、手間や時間がかかる疫学研究であることから、臨床医がどのように関わるのか分かりづらいところがあります。しかしながら、自治医大卒業生が赴任しているような地域では、診察室に来る患者さんだけではなく、その家族を含めた地域住民の健康状態にも目を向ける機会が多くあると思います。役場との関係も近く、保健師さんとも話す機会も持ちやすいためこの手の研究は却ってやりやすい環境とも言えます。第1コホートでは、脳卒中や心筋梗塞の発症率に関する論文を発表しました1が、自分の働いている地域でこれくらいの人が発症するんだと思いました。10年間の発症リスクについても実際の現場で使っていただけるように図を用いて発表しました2,3。それ以外の論文についてもHPに掲載していますので参考にしてみてください。
 今回、研究こぼれ話の原稿を書くにあたり、JMSコホート研究をざっと振り返るとともに、卒業生には誰にでも研究の門戸が開かれていることを改めてお伝えしたいと思いました。興味のある方は、HP(https://www.jichi.ac.jp/dph/inprogress/jms2/)を見てみていただき、気軽に事務局(cohort2@jichi.ac.jp)に連絡いただければと思います。来年も11月に合同リサーチミーティングを開催する予定ですので、どのようなものか実際に見に来ていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

1 Ishikawa S, Kayaba K, Gotoh T, Nago N, Nakamura Y, Tsutsumi A, Kajii E.. Incidence of total stroke, stroke subtypes, and myocardial infarction in the Japanese population: the JMS Cohort Study. J Epidemiol. 2008;18:144-50.

2 Matsumoto M, Ishikawa S, Kayaba K, Gotoh T, Nago N, Tsutsumi A, Kajii E. Risk charts illustrating the 10-year risk of myocardial infarction among residents of Japanese rural communities: the JMS Cohort Study. J Epidemiol. 2009;19:94-100.

3 Ishikawa S, Matsumoto M, Kayaba K, Gotoh T, Nago N, Tsutsumi A, Kajii E. Risk charts illustrating the 10-year risk of stroke among residents of Japanese rural communities: the JMS Cohort Study. J Epidemiol. 2009;19:101-6.

(次号は、自治医科大学精神医学の塩田勝利先生(福島21期)の予定です)

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